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麻酔の偉人たち|書評

麻酔の偉人たち ―麻酔科学史に刻まれた人々―

編著:J.ROGER MALTBY

訳 :菊池博達 岩瀬良範


1600年代の作曲家で指揮者でもあったジャン=バティスト・リュリは、演奏中に指揮棒が足に刺さり化膿したため切断が必要と言われました。しかし当時の切断は無麻酔で行われていたため、これを拒否し敗血症で亡くなったとされています。(当時は指揮棒を床に打ちつけるようにして指揮をしていました。)本書の73ページに1700年代の切断術の恐ろしい絵が掲載されています。このような切断法しか選択肢が無ければ、手術せずに死亡を待つという決断もありだと思いました。今では麻酔無しの観血的手技など想像もできませんが、昔は医師も患者も相当な覚悟で手術に挑んだのだろうなと想像できます。


本書の翻訳をされました岩瀬良範先生は本学の卒業生で、現在、埼玉医科大学麻酔科教授としてご活躍されています。まずは是非岩瀬先生の翻訳後記から読んでみてください。


後記冒頭にあります故関根正雄先生は、以前本学の医学史を担当されていました。明治生まれの先生で、慶應大学医学部を卒業し戦時中は中島飛行機会社の足利病院に勤務されていたそうです。シベリアに抑留され、昭和23年に内地に無事帰還された先生です。人が進む道というのは、時として偶然に決まる事があります。岩瀬先生も関根先生との出会いが医学史への興味の第一歩だったそうです。


本書は、麻酔科領域で有名な先人達の生い立ちや功績が、その私生活も交えながら興味深く記されています。皆様ご存じのアプガー・スコアのアプガー女史、その功績は知っていても人となりはご存じないかもしれません。女史が苦学して医師となりその生涯を産科麻酔に尽くした事、音楽の才能がありヴァイオリンを制作していた事などが、優しげな表情で写っている写真と共に紹介されています。また、ヒックマンが30年の短い生涯の中で、気体を吸う事による麻酔効果を思いついて実験し続けた事をご存じでしょうか。さらに研究のために自身に何度も麻酔をかけたエドガー・アレキサンダー・パスク、スワンガンツカテーテルのハロルド・ジェレミー・スワン等々、興味深い内容で、読む事を止められなくなる事間違いなしだと思います。日本語の翻訳版である本書には、パルスオキシメーターの発明者である青柳卓雄氏と経口麻酔薬で有名な華岡青洲も追加記載されています。

岩瀬先生の後記にあるいように、この本は是非若い世代にも読んでいただきたいと思います。関根先生が言われたように「歴史は現在を吟味する方法」であり、過去の様々な医療者の生き様が、若い先生達の医師として研究者としての生きるヒントになるでしょう。