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コラム会報誌研究発表

思い出と疫病|会長コラム vol.5

私が獨協医科⼤学の当時の循環器内科に⼊局させて頂いた時に、腎臓班だった⼀⼈に岡⼀雄先⽣(現在は岡医院の院⻑で塩⾕医療史研究会の代表)がおられました。当時は腎⽣検の数が多く、現在の腎⾼⾎圧内科教授の藤乘嗣泰先⽣、獨協中⾼校⻑の上⽥善彦先⽣を始め多くの先⽣に⼤変お世話になりました。

腎⽣検は週に1−2回程度、外来オペ室で⾏なっていました。概ねいつも岡先⽣と私と助⼿の先⽣の3⼈で組織の採取をしていました。私が採取した検体を近くにスタンバってる岡先⽣が顕微鏡で観察し、⼗分な⽷球体を確認して終了します。それまで勤務していた施設では、検体を採取した後で鏡検していなかったため、時には⽷球体が⼀つあるいはゼロなどという事もありました。そのため岡先⽣の⽷球体確認は本当に有り難かったです。採取した検体はすぐに第2病理に運び、病態によって様々な染⾊がなされ、1週間に⼀度の第2病理で⾏われる腎⽣検ミーティングで確定診断に迫っていきます。珍しい症例(ファブリ病や親⼦でIgA 腎症や尿所⾒の無いSLE など)も多く、腎臓学会や地⽅会への発表でネタ切れになる事もありませんでした。

過去の思い出はこの位にしましょう。


私は博⼠号を取得した後は⼤学から離れましたので、なかなか岡先⽣ともお会いする機会がありませんでした。この夏にお⽬にかかった藤乘先⽣から「岡先⽣が栃⽊の歴史の本を出している」という話を伺った事より、同窓会会報の原稿を岡先⽣にお願いすべく、暫くぶりに連絡を取ったのです。岡先⽣からは寄稿の快諾と共に、共同執筆なさった「栃⽊の流⾏り病 伝染病 感染症」「かかりつけ医のココロ」「栃⽊県医師会誌II」が送られてきました。「かかりつけ医のココロ」では、他の同窓⽣も執筆されており、患者さん向けの愛情深い本でした。(懐かしい同級⽣も書いていました!)「栃⽊の流⾏り病 伝染病 感染症」は、詳細な調査研究に基づいた栃⽊県の、あるいは、時に⽇本の感染症についての記録でした。岡先⽣が担当された章は、⾚痢、インフルエンザ、⽇本脳炎、ポリオ、予防接種の変遷、新型コロナウイルス感染症と多岐に渡っていました。それにしてもこれだけの⽂章を書くにあたって、どんなに多くの時間と調査や資料集めが必要だったか・・。その事を思うと⼼から拍⼿を送りたいと思いました。しかし感動はそれだけではありません。岡先⽣を始めとする執筆された皆様の⾮常に冷静な考察や⽂章が、かえって事態の深刻さや重さを知らしめ深い感動をおこさせるのです。栃⽊は私たちの⺟校である獨協医科⼤学のある⼟地です。その
栃⽊県で、種々の感染症により県⺠がどのように苦しみ、それに対して過去の医師たちがどのよな苦労をしたのか、是⾮⼀度⼿に取って読んでみて頂きたいと思います。これから私たち医師がどのように感染症と対峙すべきなのか、患者さんと共にあるいという事はどういう意味なのか⾊々と考える良い機会になると思います。



追加;ある程度以上の年齢の先⽣は獨協医科⼤学微⽣物学教授の安村美博先⽣をご存知かと思います。「栃⽊県の流⾏り病 伝染病 感染症」の第九章に岡先⽣が記述されていますが、ウイルスの培養細胞として世界的に⾼く評価されているVero細胞の樹立は安村教授だったのですね。知りませんでした。もっと真⾯⽬にお話しを伺っておけば良かったです。ごめんなさい、安村先⽣。